Miss.Lの修業 その3

煮詰まったときには練習する。
もちろん練習がしたいわけではなく、体を動かして頭を空っぽにしたいだけである。
踏み込んだ足を押し返す地面の力が心地よい痺れとして足の裏をくすぐる。
少なくとも昼よりはまともに体が動いている。
地面がトランポリンのように私の体を押し上げてくれる。この押し出す力に乗れば空を飛ぶことすら可能に思えてくるほど乗れている。
飛び上がる瞬間に足首の件が伸びているのがわかる。
あっ、もう一歩!!
 
着地の瞬間少し無理はあったが足を少し曲げて着地する。
なにか、小さなものが着地する直前にとんてきた。
着地を止めることをできるわけではないので、足首を少し捻って進行方向に向けてまっすぐ延びていたのを右に30度ほどは傾けることができた。
逆にいえばその程度が限界。
足首での着地のショックを吸収することの効果は期待できなかったので膝がいつも以上に曲がる。次の攻撃に備えてそのまま曲げた足を一気に伸ばしてそのまま前に進む力として使う。
予想通り今まで立っていた空間に何かが空を切って飛んで行った。
「縹?」
体を90度捻ったのは練習場にいて体が型を覚えているので無意識にやっただけではあるがそのお陰で三撃目もかわしたのはちょうど胸の前を通り過ぎる物体。速度からいっても銃などの近代火器の感じじゃない。至近距離を通過したにもかかわらずそこから匂いも熱さも感じられなかった。
拳法の型はすべての技を組み合わせて技を習うためのものなのですが、それだけではない。実践でもっとも効果が高かった戦い方の集大成でもある。故に今躱せたのも偶然ではない。型を覚えることは時間を作ることと教えられたのは伊達ではない。
攻撃を受けてこちらの対応を考える間の体を動かし相手の攻撃に自動対応するシステムとして働いている。そして、この時間を利用して対応を考える。
軌道から推測される発射点は毎度変化している。しかし、表面からだけ推測するのは危険です。誤認させる為に回転をかけて軌道を変化させている可能性がある。その証拠に角度は思ったほど多くは変わっていない。心配するのは相手が一人ではなく複数で行動することだが用兵術の基本として距離をとって相手に気がつかれず攻撃するのであれば 発見される可能性型から考えても分散していると考えられる。故に一人の可能性が高い。たった一人で攻撃してくるのは不自然だがそう考えるのが自然だろう。
相手が一人ならこちらから攻めるほうが効率がいい。
考えている間も体は自然に動いているし、相手の攻撃もかわせている。ただ、このままではいつまでも持たない。相手の攻撃が徐々に先読みを始めているからである。それに型も無限にあるわけではない。二周目はパターンを読まれているので今のような現在いる場所への攻撃だけでなくなる。こちらの速度も無限に上がるわけではないが思った以上に体が動いている。
あっ、余計なことを考えている・・・
そう、殺気が感じられないので相手の場所が分からない。見通しの良い練習場だから隠れる場所などそうそうあるはずはない。
考えられる場所は数か所。周りにある老木が二本といつも長老の座っている石で造られた椅子の後ろ。
斜めに少し角度がついて飛んでくる物体ということは高いところから落ちてきているように見える。だとすれば話は早い。相手の正確な攻撃も逆を返せば予測しやすい攻撃です。
 
相手がいないで行う型と実戦の違いは棒の使い方。
もちろん実戦を想定した練習ですが、相手がいないと地面をたたく物以外は必ず空を切り相手に当たったり、流されて方向を変えられることがない。
それゆえに相手に当たった瞬間に腕に流れ込む全身の力が盛り上がる瞬間がない。
今でも余裕を持っているわけではないが、その部分においてまだやれることはある。棒を90度回転させて棒の握りを変える。
変えた瞬間に棒の速度が20%程アップする。
これは先端に付いている羽のせい。練習用の棒は空気の抵抗を受けやすくされていて90度回転させると その抵抗となる笛の部分に空気の流れが起きなくなってスピードが上がった。
踏み込んだ足の力で地面が少し沈む。本当に沈んだかどうかは別としてそう感じた。
体を軸にして腰の高さにして回転を加えると独楽のように体が回る。
ここで足を止めればすぐにも飛んでくるはず。もちろん予想通り。
止まる前の独楽の重心が左右に振れるように角度をつけて飛んできたものを打ち返した。
手ごたえからは石のようなもの。方向は先ほど推理した・・・・
 
椅子の裏から人影が。
人影に向かって回転している力の軸足を右足において左足ですべて受け止める。
悲鳴をあげながらも左足は足首、膝、股関節、指まですべての関節と筋肉が目いっぱい力をためて沈み込む。貯めた力を弾けさせるように一気に大きく前に飛ぶ。
勿論、長老の椅子まで。
飛んでいる間に反対方向に押された体はゆっくりとスピンを始める。